2007年09月20日

日銀の、いや中央銀行といふものによる金融政策といふもののミッションは何か、をまず議論するべき

日銀政策決定会合、利上げ見送りでしたね。
今回もまた8対1。
水野温氏氏、相変わらず一人利上げ派。
http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji07/k070919.pdf


日銀が利上げするべきか、見送るべきかについて、議論が巻き起こっています。
ただ、個人的には、議論が噛み合っていないと感じます。
というわけで、それぞれの意見の根拠について、整理してみたいと思います。

利上げ見送り派は、大まかに2タイプあります。一つは、「インフレ率がゼロ近傍をうろついているのになんで利上げなんだ?」というタイプ。この際、日本の消費者物価上昇率は実態よりも高く出ているんではないか、実態は依然としてデフレが続いているのではないか、という議論も重要な論拠になってきます(CPIの上方バイアス)。
このタイプの人たちは、今回の緊急事態関係なく、利上げ反対。
田中秀臣さんなどは、ブログの言説を追うに、このタイプかと思われます。

利上げ見送り派のうち、もう一つのタイプは、「通常なら上げてもいいんだけど、今は世界的な信用収縮という緊急事態なので、日本も上げるわけにはいかない」ってタイプ。このタイプは、あくまで現状が異常事態なので、ということが見送りの根拠になっており、異常事態でなければ、本来、利上げ派に属する人たちです。


一方、利上げ派の根拠は、以下のような感じです。
ちょっと前までは「日本の土地とかそろそろバブッてんじゃないの?景気もそこそこいいし利上げしとけば」という話。今はこの状況なので、根拠としては立ち消えていますが。
ただ、もっと広く世界的な過剰流動性の原因が日本にあるとして、現在は「円キャリーでジャブジャブなんだよ。日本の超低金利が原因なんだよ。そろそろ止めろよ」というのが、利上げ派の主な根拠になっています。
佐藤秀さんなんかは、こうした論陣を張っています。
水野温氏さんも基本的にはこうした考えですね。



以上のような主張は、利上げ派にしろ利上げ見送り派にしろ、根拠としてはどれも納得性が高いものです。
ただ、議論のレイヤーが違うために噛み合ってないのです。
こういう場合、「そもそも論」というか、「べき論」に返るべきです。
つまり、「そもそも中央銀行のミッションは何なのか。中銀は何を目指して金融政策の舵取りをするべきか。」に立ち返るべきです。


金融政策のミッションが、あくまで物・サービスの物価上昇率をコントロールすること、に尽きるなら、現状の結論は、サブプライム問題が無くとも、当然、利上げ見送りでしょう。
ただ、金融政策のミッションは、物・サービスの物価上昇率をコントロールすることに尽きるのでしょうか?
これは判断が難しいところです。
なぜなら、物価は安定していても、資産価格が上昇する局面があるからです。
購買側から考えると、モノ・サービスの購入に使うお金の出所と株や土地の購入に使うお金の出所は同じなわけです。つまり、買う側からすれば、モノ・サービスだろうが株や土地だろうが、財布は一つな訳です。

そう考えると、CPIのコントロールだけに終始してよいのか、という疑問が残ります。
インフレ・ターゲット論の弱点は、この点にあります。物・サービス価格が安定しているから、資産価格は放置していいのか。
実は、FRBも、ここについて明確な答えを持っていないように僕には思えます。
グリーンスパン前議長は、神のように崇められました。確かに絶妙な舵取りをしたのは間違いないですが、こと地価の上昇への対処については、かなりの迷いを見せていた。
バーナンキ現議長に対する風当たりが強いですが、地価上昇・住宅価格上昇を放置したという意味では、現在の米国の住宅がらみの諸問題(サブプライム・ローン問題も含め)の原因の一端は、グリーンスパンにもある、と言ったら言い過ぎでしょうか。

以上を考えると、物・サービスのインフレ率だけを議論の対象に金融政策を論じるのは、狭きに失する気がします。
物価が上昇し続けるのを放置してはマズイ状況になる、というのが金融政策の根拠なら、資産価格が上昇し続けるのを放置してはマズイ状況になる、というのが根拠にならないとは言い切れないと思います。



では、物・サービス価格の上昇率と同時に、資産価格の上昇率も横目に見ておけば、万事OK、話は終わり、なのでしょうか。

ここでいう「物・サービス価格」や「資産価格」は、どこの「物・サービス」や「資産」を指しているのでしょうか?
常識的には、その国の、ということになります。
では、その国以外の「物・サービス」や「資産」については、全く責任が無いのでしょうか?

仮に、J国の中央銀行が超低金利政策を採っていたとします。J国の超低金利に乗じて、J国から金を借りまくり、A国の土地に投資しまくって、A国の地価が暴騰したら、誰が対処するんでしょうか?
A国の中央銀行?一義的にはそうでしょう。A国の利上げによって、A国の土地の収益率が低下して、この流れは収まるかもしれない。
ただ、そもそもの根本的な原因は、J国の超低金利にあるわけですから、J国の中銀の責任が全く無い、とは言い切れない。

現在のように、資金移動に「国」という概念がほとんど意味をなさない状況下で、「国」単位で責任を限定していて、機能するのでしょうか。
中央銀行が「一国の」インフレ率や資産価格のコントロールに終始してもよいのか、という議論が持ち上がるわけです。


というわけで、今回のサブプライム・騒動に端を発した信用収縮や、円キャリートレード、日銀の利上げに関する議論を見る限り、現在における中央銀行のあり方そのものを考えなければいけないという、宿題を突きつけられている気がします。



ちなみに、僕の中での結論は、「中銀は資産価格も視野に入れるべき。ある程度協調体制はとりつつも、各国別に責任を負う。」というものです。
日銀低金利政策が、円キャリーを通じて米国に・・と言いますが、米国の住宅問題は、FRBがもっと引き締めておくべきだったと思います。事前に、米国の実体経済はもっと減速しておくべきだった、と思います。
そういう意味では、日本ももっと前に多少利上げしておくべきでしたでしょうね。
物価がこの状況で、中銀の役割について、ターゲットを広げるべきという議論も煮詰まっていないなかでは、大変だったと思いますが。
ただ、今になって、円キャリーを止めるために利上げしろ、というのは、バブルの原因が低金利にあるからといって、すでにバブルが崩壊している過程で利上げするようなもの。もう遅い気がします。
posted by nao at 11:49| Comment(0) | TrackBack(5) | 経済(学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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