2011年07月14日

「恋愛VS 婚活」で考える投資学

教えている学生さんへの課題を出したいので、2年前に日経ビジネスオンラインに書いた原稿の元ネタを、ここにupしておきます。

日経ビジネスオンラインの原稿はこちら

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 巷では「婚活」という言葉が大はやりですね。ドラマのネタになるほどで、今年の流行語大賞には間違いなくノミネートされそう。まるで、少子化対策のために誰かがフィクサーになっているような印象を持つのは、スパイ映画を観たばかりだからでしょうか?かくゆう私も、30代後半になってまだ独身なので、他人事ではないのですが。
世間で言う婚活は結婚相手探しと同義ではないようですが、いずれにしろ、恋愛相手を探すのとは明らかに基準が違うようです。私は、元証券アナリストの経営コンサルタントで、長期投資をする投資信託の運用会社に関わっています。アナリスト時代から思っていたのですが、長期投資はまさに婚活、短期投資は恋愛相手を探すのによく似ています。今回は、投資を男女関係にたとえて、投資先企業の選定に大切なことを整理してみたいと思います。ただし、私が以下のような結婚観や恋愛観を持っているわけではなく、あくまで一般論の話なので、誤解なきよう・・。

恭子さんの場合、美香さんの場合

美香さん:お姉さま、今帰った人、この間のかたと違うようだけど、また違う男性と付き合ってらっしゃるの?

恭子さん:ええ、そうよ。それが何か?今の彼のほうがカッコいいし、年収も高くていらっしゃる。ドキドキ感がまるで違うのよ。恋愛はアドレナリンよ、いかに血わき肉躍るかよ。そういう美香さんは?

美香さん:私は恋愛はもういいわ。今は結婚したいの。世間で言うところの婚活中です。だからアドレナリンよりも癒される方がいいの。見た目や職業なんてこの際どうでもいいわ。安定的でしっかり者で、将来安心して一緒にいられる殿方がいいの。そんなかたは、お姉さまの周りにはいらっしゃらない?

恭子さん:あら、そんなかたがいらっしゃったら、私がもう結婚しているわ。


短期投資は恋人選び、長期投資は結婚相手選び

読者の皆さんには、既婚者のかたもいれば、未婚者のかたもいらっしゃるでしょう。たとえ未婚のかたでも、結婚相手を選ぶ時何を大切にするかは、妄想できるでしょう。もちろん、何に幸せを感じるかは人それぞれです。しかし、持続的に安定的な家庭生活を送るには、お金がある程度大事なのは同意していただけるのではないかと思います。わかりやすいので、まずはお金の面を例にとってみます。

西川史子女医が「年収4000万円以下の男性とは結婚しない」と言っていましたが、それは極端にしても、女性が結婚相手を選ぶ時、判断基準の一つに「年収」を挙げたりする人もいますね。もちろん女性がそうだという偏見は私にはありませんし、今の世の中女性のほうが稼いだりするんじゃないかと思いますが(それに、年収を挙げる人がいても構わないと思います。それが一番目に来たら、私は嫌ですが)、話をわかりやすくする喩えとして考えてください。
その女性にとっては、相手の年収が大事な情報なわけですが、実は「現在の」年収は、情報として不十分です。なぜなら、その女性にとって本当に重要なのは、現在の年収ではなく、「将来にわたってその男がどれぐらい稼ぐか」のはずです。そのひとつの目安として「現在の年収」があるわけです。しかし、それはあくまで一つの目安であって、将来の年収を保証するものではありません。今の年収が高くても、何かあったときに、その後ずっと稼ぎがなくなってしまうような男だと困るわけです。
だから、本当に知るべきなのは、「今どれだけ資産があるか」と「将来どれだけ稼げそうか」なのです。

今どれだけ資産を持っているかは、まあ聞けばわかりますね(答えてくれない?そんな人とは結婚しないほうがよさそうです)。では、「将来どれだけ稼げそうか」を知るには、何を見るのでしょう?職業?いえ、職は将来変わるかもしれません。今の世の中、何があるかわかりません。大事なのは、職が変わっても稼げる男性かどうか。つまり、今の職とは違う職に就いたとしても成功できるかどうか、を判断したほうがよさそうです。そうすると、今の年収や今の職業も大切ですが、それ以上に、人を惹きつけられるか、人あたりはいいか、得意な分野を持っているか、くじけない人か、などなどを吟味する必要がありそうです。つまり、性格が重要になってくる。

さらに、その男性が、実は裏で多大なる借金を背負ったりしていないか、とか、実は危なっかしい方法で金を稼いだりしていないか、といったことをチェックしておいたほうがよさそうです。

一方で、恋愛はどうか?「恋はするものではなく落ちるもの」とはよく言ったものですが、もし添い遂げることまで考えていない場合は、将来どれだけ稼ぐかはあまり重要ではなく、今エキサイティングなほうがいいかもしれません。将来よりも今稼いでいる方がいいわけです。今見た目がいいとか、今の職業は何しているとかが重要なわけです。繰り返しますが、私の恋愛観がそうだというわけではありません。

これ以上お金を例にとると非難されそうです。もちろん、恋愛にしろ結婚にしろ、本当に重要なのは「幸せ」ですよね。幸せを基準にしても、恋愛の場合は、どちらかというと今が大事。「あ、間違えたな」と思ったら、結婚に比べれば相手を変えることも容易でしょう(もちろん、大変苦しい思いをしますが・・)。
一方で、結婚は、「夏の思い出」探しと同じというわけにはいかない。将来にわたってこの人といて幸せか、ということを判断しなければなりません。恋愛ほど簡単に相手を変えるわけにはいかないので、事前にしっかり見ることが大切。その人のやることを応援できるか、一緒に子育てを楽しめるか、自分を大切に思ってくれるか、周りの人たちを大切にする人か、そうしたことが重要になるはずです。要するに「性格」の比重が、恋愛と比べて格段に上がるはずです。
そうして、「うん、こんな人なかなかいない!」と、合格基準をクリアした暁には、その人をゲットするのにどれだけの対価を支払っていいかを考慮する必要があります。故郷を離れなければならないとか、相手が猫アレルギーなので大好きな猫は飼えないとか、場合によっては今つき合っている人と別れなきゃいけないとか、そうした支払う対価以上に幸せが得られそうなら(つまり割安なら)、コンカツ終了、晴れて結婚と相成るわけです。

これ実は、投資をする上での企業の選定と驚くほど一致します。
短期売買の場合は、そのとき儲かるか、が大事。そのときエキサイティングかが大事。なので、その企業の本当の性格を見るよりも、値動きがいいとか、今期業績がよさそうだとか、そういうことが投資の基準になりがちです。
長期投資の場合はどうでしょう。長い付き合いを前提にするわけですから、信頼してお金を任せられるかが大事。長い目でその企業が価値を高められるかが大事。婚活と同じように、「パートナー」探しをするわけです。
そうすると、必然的に企業の見るべきところが違ってきます。当然、今持っている資産も見ますが、「将来どれぐらい稼ぐか」を判断するには、「性格」が重要になる。今の値動きや今期業績よりも、経営の質や企業文化などをしっかり知りたくなる。顧客を大事にしているか、社員を大事にしているか、どういう信念を持っているのか、子育て(次世代教育)に熱心か、今までどういう人生を歩んできたのか、失敗を糧にしているか、どういう長所・短所を持っているのか、社会に必要とされる事業をしているのか。それを高いリスクを取ってやっているのか、それともリスクはそれほど取らずに、行えているのか。職(事業)が変わっても稼げる強みがあるか。「こんな人、なかなかいない!」と思えるか。

そうして考えた企業価値に対して、支払う対価が高くないと判断したら、パートナーになる。それが、長期投資の視点です。そういう意味では、長期運用の投資信託は、さながら「結婚紹介所のおばさま」のような存在かもしれません。



恋愛体質な日本の株式市場

日本の株式市場は、ここ数年、短期売買偏重になりつつあるのが実情です。東証一部の売買代金回転率(年間売買代金÷時価総額)は、95年辺りを皮切りに上昇を続け、現在では1.4−1.5倍とバブル期に比べても2倍以上の回転率になっています。それだけ、短期売買が盛んになった、というのが現状です。
短期志向なのはプロも同じです。早稲田大学の首藤教授らによるファンドマネジャーの行動比較をみると、日本のファンドマネジャーは、投資の時間軸が、数週間以内が20%、6か月以内で70%強を占め、1年以上は1割に満たないのに対し、米国では6か月以内が20%強、1年以上が4割近くを占める、という結果になっています。日本の株式市場は、恋愛体質な市場であると言えます。

 恋愛が悪い、と言いたいわけではありません。人生の彩りとして、恋愛は必要でしょう。わき上がる情熱をぶつけるような恋は、人間誰しもしてみたいですよね。先日、「それでも恋するバルセロナ」を観ましたが、熱病のような恋愛と安定的な結婚、どちらかでは割り切れない人間の性(さが)がよく描かれていました。ただ、社会が、回転の速い恋愛だけだと不健全なわけです。クリスティーナは闇雲にアツい恋愛に飛び込んだ挙句、最終的に虚しい思いを抱えてしまうわけです。パートナーとなり温かい家庭を築くということが、社会には必要なわけです。
結婚相手と一緒にいることがハッピーでなくなってしまった場合には、本当のパートナーとは言えないので、別の相手を探すことも選択肢の一つです。長期投資でも、「これは違ってきたな」と思えば、売ることも視野に入れなければなりません。ただ、アドレナリンを噴き出しながら売買を繰り返す投資ばかりでなく、信頼した相手とじっくりゆったり付き合う、というスタンスの投資が増えないと、「お金を融通して、事業をヘルプする」という本来の金融の役割は半減してしまいます。少子化問題が事業の面でも起こってしまいます。日本の「事業の少子化問題」には、実は不動産投資額が大きいという主因があるのですが、それはまた別の機会に・・。



恋愛と結婚、どちらが実り多い?

 さて、恋愛と結婚、どちらが実り多いのでしょう?これは当然、「どういう相手を選ぶか」次第です。すなわち、短期投資と長期投資のパフォーマンスは、投資先企業の選定に依存するのですが、それでも確率的にはどうか、ヒントはあります。ジェレミー・シーゲル教授や井出正介さんの研究によれば、投資期間が長くなるほど、株式のハイリターン性は比較的温存されたまま、リスクは次第に小さくなることが指摘されています。シーゲル教授の実証分析によれば、投資期間が20年を超えると、株式の年平均リターン(インフレ調整後)が長期国債を上回るばかりか、リスクも長期国債を下回ったという研究さえあります。長期で見ると、株式はローリスク・ハイリターンとさえ言えるかもしれません。
「過去は過去だよ、将来がどうかはわからない」という批判もありそうです。そこで、別の例を紹介します。現在ベストセラーの「ブラック・スワン」を書いたナシーム・ニコラス・タレブさんが以前書いた「まぐれ 〜投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」にも紹介されている例です。少し専門的になりますが、年率で期待リターン15%、ボラティリティ(変動性)10%の正規分布の市場を仮定してみます(本当は株式市場は正規分布よりも裾野の長い分布をしているのですが、ここでの本筋は変わらないので、このまま使います)。すると、1年間で儲かる確率は93%なのに対し、1四半期だと77%、1か月だと67%、1日だと54%、1時間だと51.3%、1分だと50.17%、1秒だと50.02%…というように、短期になるほど勝つ確率が5割に近づきます。これは、長期で上昇トレンドをもつ相場でも、短期で見るとランダムに上下しているからです。よく「上がったら売る、下がったら買うを繰り返せば儲かる」と言いますが、コイントスの賭けを繰り返すようなもので、上昇相場でさえ確率は5分5分になってしまうのです。
考えてみれば、投資リターンの源泉が企業の利益であることを考えれば、当たり前の話かもしれません。短期売買の時間軸では、企業が利益を上げる暇(いとま)がありません。つまり、全体のパイは増えないなかで、投資の勝ち負けを決めているわけです。一方、時間が長いほど、いい企業なら利益を上げます。そうすると、全体のパイが増えるので、投資パフォーマンスが出る可能性は高まるわけです。そう考えれば、パイの増えない世界であくせく恋人を乗り換えるより、パイが増える中でゆったりパートナーと過ごす方が、実りがあると言えるかもしれません。



パートナーだからこそ、外れたことをしていないかチェック

 パートナーだとしたら、相手が外れたことをしていないか、きちんと見ていてあげることも必要です。それこそが、ガバナンスです。企業に投資したからには、きちんとウォッチすることが必要です。個人でできないなら、きちんとウォッチしているプロに任せることも選択肢です。そもそも、ウォッチ体制としてのガバナンスを整えていない企業は、結婚を考え直した方がいいかもしれません。パートナーに重要情報をきちんと与えない企業もそうです。恋愛相手だったら秘密主義は「ミステリアス」として魅力の一つかもしれませんが、結婚相手が秘密主義っていうのは、どうかと思いますよね(でも携帯メールまで見るのはインサイダー情報のような気が・・)。
 そして、パートナーだからこそ、高圧的に「物言う」のではなく、優しく諭してあげる、一緒に前向きに考える、という姿勢が大切な気がします。世のお父さんがたの「そうだそうだ」という声が聞こえてきそうです。

 以上、婚活と恋人探しで、長期投資と短期投資の違いを見てきましたが、少しでも皆さまのインサイトとなったなら幸いです。恋愛で痛い目をみた人は、真剣に結婚相手を探す長期投資を考えてみてもいいかもしれません。分からなければ、信頼できる結婚紹介所もありかもしれません。長期投資とは言え、最後の最後の決断は「えいやっ」です。「えいやっ」と行動に移す人が増えて、事業の少子化問題を回避できたらいいなと思っています。ところで、「そんなことばかり言ってるから結婚できないのよ」と言い放って去っていったあの人は元気でしょうか…。

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