2009年08月07日

書評:ナシーム・ニコラス・タレブ「まぐれ 投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」

3年前に、「金融オプションを売るのはバカ者のすることではないのか?」というエントリを書いた。
エッセンスは、オプションの値付けは間違った分布を仮定しているので、オプションを買い続ければ長期的に勝てる、ということ。

で、驚いたことに、いたのだ。実際にそれでファンドを運営している人が。
それが、本著を書いたナシーム・ニコラス・タレブ氏。
それに気づいたのは、読み終わり近く、本著の最後の最後の、しかも訳者あとがきに書かれてあった。
(現在売れまくっているらしい「ブラック・スワン」を書いた同じ人。)


で、本著の内容。これまた僕の考えにかなり近い。

この人のメッセージは、単純。市場の日々の動きはノイズだ、ということ。

マーケットというのは、簡単に例えると、10年に一度の大波とその間の凪(なぎ)で作られている。
ほとんどの市場参加者が凪で飯を食っている。

僕は、一時期、株式ストラテジストとして、お偉いさんとチームを組んでいたことがある。
そのとき、横から部長が「お前は、○○さんのために日々刻々のニュースを追わなければならない。」
とんでもない、そんなものノイズでしかない。
僕からすると、ゴミあさりをしろ、と言われたに等しい。
だから断った。
日々のニュースを逐一追うことに僕の強みはないこと、そもそもノイズであって、そんなことをしたら本質を見失うこと、を述べて、「やりません」と断った。
幸い、そのおえらいさんのほうは、柔軟で頭の良い人だったので、分かってもらえた。

僕が前職を辞めた理由はいくつかあるが、一つがこのノイズだ。
マーケットのノイズの説明を日々求められるような仕事に飽き飽きして、時間の無駄だと思うようになったから。本来、証券アナリストが提供するべき価値とは違うと感じたから。いやそれよりも、「僕」が提供するべき価値とは違うと感じたから。
こういうのは、ノイズだと気付かずに、したり顔で説明したがる輩にやらせておけばいい。
僕は実を取りたい、実際に役に立つ仕事がしたいと思ったのだ。

悔しいのは、ノイズをノイズとさえ認識していない「プロ」に騙される人があまりに多いこと。
こういう心情は、この著者と全く共有している。
著者の矛先は、主にジャーナリストに向かっているが。

なぜ、マーケット参加者でぼろ儲けしていた人が、突然吹っ飛ぶと思いますか?
彼らは、凪のときにリスクを取って儲かっている。リスクを取り過ぎていることに気付かず、自分がスーパーマンのように勘違いしているのだ。ひとたび大波がきたら、取り過ぎたリスクによって、飲み込まれてしまうのだ。

動物のメスは、他の条件が同じなら、健康な若いオスよりも健康で年寄のオスを交尾の相手に選ぶ傾向がある。長く生きてきたということは、その間に起きた突然の変化に対して高い抵抗力を持っている可能性が高いのだ。

凪でまともに儲けることが、いかに難しいかの例。
正規分布で、年率で期待リターン15%、ボラティリティ10%の市場を仮定する。
(本当は株式市場は正規分布ではないが、ここでの議論の本質とは関係ないので)。
このとき、任意の1年間で儲かる確率は93%、1四半期だと77%、1か月だと67%、1日だと54%、1時間だと51.3%、1分だと50.17%、1秒だと50.02%‥
年率期待リターン15%という長期で上昇トレンドを持つ相場でも、時間が短期であるほど、ランダム性が増すのだ。
デイトレ?やめときなさいって。

凪の時期は悪貨が良貨を駆逐する。ノイズで食ってる人のほうが、リスクを取り過ぎていることに気付かない分、凪のときには儲かるから。そして、上のマネジメント層がバカなので、儲かっているやつが偉いと勘違いするから。
ネガティブ変異という言葉がある。繁殖適応度が前の世代よりも劣っているのに生き残っていく特性だ。そして大概、数世代以上は生き延びられない。この言葉を金融マネジメント層は知ったほうがいい。

筆者のたとえで言うと、「サルを無限大匹集めると、イーリアスを正確に書く猿が1匹は出る。そのサルは次にオデュッセイアを書けるか?」となる。
切れ味鋭すぎ。
僕は、特に株式市場は完全ランダムとは思っていないので、この喩えはやり過ぎだと思うが、でもかなり本質を突いていると思う。

他にも、確率論や統計データのサンプルの誤りなど、同意同意!な話が満載に登場する。
そういうえば、サンプルの誤謬は、コレにも登場したな。

突然ですが、以下の問いに挑戦してください。
不正解だった場合、本著を手にとって、その舌鋒鋭い言説を堪能されることをおススメします。

問題:人口1000人のうち1人罹る病気があります。ある検査では、5%の確率で誤ってこの病気の偽の陽性反応が出ます。いま、ある被験者を検査したところ、陽性でした。
果たして、この被験者がこの病気に罹患している確率は?

5%しか偽陽性反応が出ないなら、95%罹っているじゃないの?と答えた方、不正解。

答えは約2%。ええ、2%しかありません。


理由は、陽性反応が出て、かつ罹患している、という条件付き確率を求めなければならないから。
ここに1000人いたとすると、陽性反応が出るのは何人?
本当に罹っているのが1人。
罹っていないのに偽の陽性反応が出るのが50人。
つまり、陽性反応のうち本当に罹っているのは、1/51で約2%。

へーへーへー、と思った方は、本著をぜひ。
ちなみに、同じような例が、認知バイアスとしてコチラにも登場しますので、20へーのかたは合わせてどうぞ。


ラベル:金融 経済
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