2009年08月04日

血迷う脳 書評:マッテオ・モッテルリーニ「経済は感情で動く〜はじめての行動経済学」&「世界は感情で動く〜行動経済学からみる脳のトラップ」

行動経済学は、従来の経済学が前提としてきたホモ・エコノミクスに対するアンチテーゼとして登場した。
ホモ・エコノミクスとは、人間を「経済的利益を最大化するエージェント」として捉えること。そうすると、数学的モデルが立てやすい、というメリットがある。
行動経済学が主張するのは、「人間は経済的利益を極大化するような合理的な存在でない、結構非合理な存在だ、しかも、その非合理に規則性が見られるよ」ということだ。

確かに人間は「経済的」利益は極大化しないが、お金で測れないものも含めて「利益」と考えると、やはり利益を極大化する存在だと思う。
また、個々人レベルでは、ときおり合理的でない行動もとるが、集合体としてのマクロでみると、経済的にもかなり合理的なのではないかと思う。

というわけで、行動経済学は、従来の経済学へのアンチテーゼとしては、やや過剰にもてはやされている感じが、僕はしている。

とはいえ、「脳の非合理性には規則性がある」というのは、すごい発見だと思う。脳はこういうトラップにひっかかるのだ、ということを実際の実験やテストで提示してくれるだけでも、理屈抜きでおもしろい(ちなみに、僕は天邪鬼だから、こうした実験にあまり引っかからないけど)。しかし、それ以上に、こうした非合理の規則性を理解していると、マーケティングや政策上のインセンティブ設計にかなり活かせるはずなのだ。

例えば、価格のアンカー効果(高いものを混ぜると、それに引っぱられて平均売価が上がる)なんて、典型的な価格戦略だ。
お客さんのためを思って種類を増やしたのに、逆に売上が落ちた、なんてことを避けられるかもしれない。

あるいは、こうした脳のトラップを知っていることで、逆に「ひっかからない」ように注意することもできる。
先日書いた「ハロー効果」は、まさに認知バイアスのひとつだ。


人間の脳は、時間をかけて合理的に決定に結びつくルートと、時間を節約して即決する、そのかわりに合理をやや犠牲にするルートと、2つのルートを持っている。
行動経済学は、とどのつまり、この後者、「時間の節約のために、ときおり合理を犠牲にしてしまう」ときにハマるトラップを扱ったものと言っていい。
ようは、「血迷った脳」学。

こうした仕組みを知れば、この2つのルートをうまくコントロールできるかもしれない。
つまり、行動経済学を知ることは、篇頭体が生み出す結論のスピードと、前頭前野皮質が生み出す合理を、いいとこどりしようという試みなわけだ。

でも、もしかしたら篇頭体はコントロール不能であるがためにスピードが出るのかな?
そこは本著を読んだ後に、ご自身で「実験」してみてください。




posted by nao at 11:41| Comment(0) | TrackBack(2) | 経済(学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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