2009年08月03日

後光に目が眩むかたへ 書評:フィル・ローゼンツワイグ「なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想」

先日ここに「ビジョナリー・カンパニー」は結論の導き方が論理学的におかしくないか?と書いた。
と、偶然、「ビジョナリーカンパニー」を別の観点から否定する本を発見、思わず一気読み。

この本、ベストセラーのビジネス書や経営分析を信じている人は、必ず目を通すべし。
「エクセレント・カンパニー」や「ビジョナリー・カンパニー」の信奉者は特に必読。

本著の指摘は、僕が長年抱いてきた感覚とかなりリンクする。
その感覚とは、「かなりの経営分析記事やアナリスト・レポートは、統計学の基本を無視している、理由は後付け、結論の導出が論理学的に間違えている。短期的な評価が多いので、すぐにその評価が覆される」というもの。

その理由を、「ハロー効果」を中心に論じたのが本著。

ハロー haloとは、後光のこと。
ハロー効果とは、ある対象の評価をするときに、顕著な特徴に引きずられて他の特徴への評価が歪められること。
悪人でも後光を背負えば善人に見える、ってことだ。

例えば、9.11テロの後、ブッシュ政権の「経済政策」への支持率までが上昇した。
テロと経済政策は直接関係ないのに。
イラク政策への支持が揺らぎ、ブッシュの支持率が低下したが、すべての評価項目で低下した。経済政策も。

ビジネス書や経営記事にも同じことが起こる。
企業が調子のよい時には、経営者は絶賛され、企業文化も顧客志向も多角化も買収も何もかも、優良企業の理由として挙げられる。
ひとたび、調子が悪くなると、掌を返したように、経営者が原因とされ、企業文化が批判され顧客志向でないと評価され、コア事業から外れたと非難され、買収は失敗だったとされ、優良企業でなかった理由が挙げられる。
おいおい、同じ理由が優良企業の根拠になっていなかったか?

アンケートを基本とした調査も、このハロー効果の餌食にかかっているため、信頼できない。それがいくら大規模で権威のある調査だったとしても。

他にも、因果関係が逆になっていたり(例えば、企業の雰囲気がいいから調子がいいのではなくて、調子がいいから雰囲気がいいのだ、等)、因果関係と相関関係を混同していたり、サンプルの取り方に問題があったり。

統計学や論理学から考えたら、信頼性の薄いことが、煌びやかなストーリーのもと、隠れて見えなくなる。

かの「エクセレント・カンパニー」も「ビジョナリー・カンパニー」も、この本の中で斬って落とされる。
僕は、いい経営をするのに、顧客を大事にする、社員の生産性が上がるような環境を整える、などが必要でないとは思わない。
ただ、ハロー効果まみれのサンプルから因果関係を無視して、「これをやれば成功する」というような論理学的に疑問の残る結論の導き方は、本著の指摘するように、やはり否定されるべきだと思う。

ハロー効果に陥らないようにするには、そして、権威を笠に着た分析を頭から信じ込まないためには、後付けの評価を疑ってかかる、サンプルの偏りに注意する、因果関係を一度冷静に考える、長い歴史を把握する、などが必要だと思う。

本著の結論としては、経営にしろ人生の選択にしろ、何かをする、何かをしない、どちらにもリスクがあるということを悟り、そのリスクとリターンを勘案したうえで決定する、そして常に次善策を用意する、ということが重要だと指摘される。
「成功する経営のためには?」という問いに対する答えとしては、本著の主張が弱いのは否定しがたい。
しかし、結局、安直な「勝ちパターン」なんてのはないのだ。
僕が思うに、勝つ確率を上げるには、「負けないようにする」ことが大切だ。
そのためには、「企業価値」という観点から、きちんとコックピットを見ながら操縦すること、そしてなるべく変化に対応できるような柔軟性を保つこと、これしかないと思う。


posted by nao at 12:13| Comment(0) | TrackBack(4) | 経営 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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