2012年05月17日

ヤクルトとダノン

ダノンがヤクルト株の買い増しをしようとしている。

ヤクルトには、ファンドマネジャー時代に一度取材に行ったことがある。
印象的だったのは、彼らの日本語のIR資料と英語のIR資料の差が、非常に大きかったこと。こういう現象はあまり見たことがなかった。

ヤクルトは、国内では非常にしっかりしたブランドを持ち、乳酸菌分野での大きな技術的アドバンテージを持っており、かつ海外売上も確実に伸ばしている。特に、新興国での売上拡大が見込まれるため、やりようによっては非常に期待のできる企業なのだが、ただ、いかんせん経営のスピード感が不足している印象は拭えなかった。
日本語のIR資料を詳細に見ても、経営に、資本効率やスピード感を感じさせるものは少なかった。あれだけの強みとブランドを持ち、海外展開も進展しているにもかかわらず、ROEが5%程度というのは、いかにも低い。
企業価値は、ROIC‐WACCの積み重ねなので、ROICの代理変数としてのROEがこの数字ならば、よほど規模拡大スピードが高くないと、企業価値の上昇は随分マイルドなものになってしまう。

一方で、英語のIR資料のメッセージは、日本語のそれと、大きなかい離があることに気づいた。
たとえば英語のアニュアル・リポートを読むと、資本の効率性を重視して、スピード感を持って企業価値を高めていく姿勢が書かれてある。

日本語と英語の資料で、こんなに経営姿勢の表現が違う企業は、ほとんど見たことがない。

取材時にそうした疑問をぶつけたところ、どうやらダノンのノウハウが一部導入されているようだった。というよりも、ダノン向けのメッセージとして、体裁を整えた、というのが、もしかしたら事実に近いのかな、という印象だった。

結局、投資はしなかった。
非常に素晴らしい強みを持った企業で、方向性も正しいと思ったのだが、経営の効率性やスピード感の不足について、そこを重視して経営改革していく姿勢は感じられなかった。せっかくダノンの資本が入っているのだから、その利点を思い切り利用してやればいいのに。
その後の株価の推移を見ると、この投資判断は間違っていなかったと思う。

と同時に、もし本当に「体裁」だけで、このままのスピード感や経営効率でよしとしているならば、それは業績拡大のスピードにも表れるはずで、そうなったときダノンはきっとそのまま静観することはないだろうなぁ、と思っていた。

で、今回の騒動。
むべなるかな、という印象がある。
あくまで想像だが、ヤクルトが、スピード感を持って企業価値を拡大させるような姿勢を持っていたら、そして実際に株価にそれが反映されていたら、ダノンも無理なことをしてこなかったのではないか。
投資先の企業がうまいことやってくれていたら、それが一番だし、変に関係を悪くするような必要はないものだ。
しかも、今回の件は、ダノン単独でやっているわけではなく、ヤクルト本社のやり方が気に入らない販社もダノンの後押しをしている、との報道もある。
こういう場合、経営の効率性やスピード感といった真っ当な話とはまた違う力学が働いていたりする場合が多いんだけど、果たして。

今回の件が、どういう展開になるのかはよくわからない。
個人的には、日本のよいものが外国資本に次々に買われていくのは、なんだかなー、という思いがある。一方で、マネジメントがうまい海外企業ならば、買収されたほうが、より一層世の中をよくするのかもしれない、とも思う。

実は、似た構図の企業は、結構ある。
日本の食品関連の企業って、いいブランド持っているのに、資本効率の低い企業が多いんだよなぁ。
もちろん、こういう構図は食品企業に限らないのだけれど。

人間、やはり目標を持たないと、そちらの方向には進まないもの。もちろん、目標さえ持てば物事が進むと言うつもりはないのだが、まずは的確な目標を持つことは第一歩。人間の集まりである企業も同じですね。
経営上の重点事項に、投下資本利益率と成長スピードを入れて、目標数字を明確にする。
それを実現するための作戦を具体化する。
現場まで浸透させて、モニターし、PDCI的に回していく。
なんてことをやっていただけたら…

今のうちですぞよ。
(自分のところの事業はどうなのか、というのは、完全に棚に上げております。笑
ヤクルトさん、偉そうなこと言ってゴメンナサイ。)

本当は、何か圧倒的な強みを持って、ゆるゆる生きていけたら、それが一番幸せなのかもしれないけれど、なかなかそうはいかないのが資本主義の世の常。
ものすごいニッチ市場じゃない限り、予想もしないような形で代替されるか、あるいはガバナンスの問題で自壊しちゃうことも多い。

なんて、つらつら余計なお世話なことを考えてきたけれど、Lカゼイシロタ株の効果を信じて、今も時折ヤクルトを飲んでいる一ファンとしては、世界に誇れるジャパンブランドとして、ヤクルトさんにはバリバリ頑張ってもらって、世界の人々のお通じをブリブリ促進していただきたいものでございます。

大塚製薬のポカリスエットとともに、「日本のコカコーラ」みたいな存在を目指していただけたら。
あのなんとも言えない母性本能(父性本能?)をくすぐる容器のまま、2リットルサイズとかで世界中で売りまくっていただければと。笑
(保存の問題や飲む量の制限で実現しないのかもしれませんが。)

posted by nao at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 経営 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

instagramのfacebookによる買収に思うこと

随分前に書いて、不明な点も多いので放置していたのですが、一応アップしておきます。

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18か月で10億ドルの値がついて、あっという間に億万長者、ってことばかりが語られていますが、ちょっと別の観点から書いてみたいと思います。

●Exitの多様化
まず、ベンチャー企業のexitが、IPOからM&Aに移ってきているというと。
Exitの方法が多様化するのは、歓迎すべきことだと思います。

●ベンチャーのマネタイズ
ただ、仕事柄、ベンチャー経営者と会ったりするのですが、バイアウト狙いだからマネタイズの方法をあまり考えていない、という風潮が強いことには、懸念を感じています。
「タダでサービスして、ユーザー数をひたすら拡大して、企業価値が上がったところで、事業ごと売却する。マネタイズは、売却先が考える。」

しかも、こういう風潮を、投資家側も助長しているフシがある。
「マネタイズの方法なんて、別にいいんだよ。事業が売れれば。」

よく例に出されるのが、Amazon。
最初、マネタイズが進まずに赤字続きだったが、今や押しも押されぬネット小売のマンモス。
ただ、誤解してはいけないのが、マネタイズの時期が遅い、ということと、そもそもマネタイズの方法を考えついていない、というのは、決定的に違うというとこです。
マネタイズがいつまでもできないと、資本を食いつぶすだけで、だんだん足元を見られ始めます。
やろうと思えばいつでも稼げる、という状態を作っておくことは、とても重要です。
マネタイズを急ぐがあまり、ユーザー数が集まらずに小さくまとまってしまう、という批判もあると思います。
確かに、稼ぐために小さな中小企業にまとまってしまう、ということはベンチャーとして避けたいところですが、一方で、サービスに価格をつけたら広がらない、って時点で、たいしたサービスではないのかもしれません。

●買収価格について
なぜか色々記事を見てみたんですが、一つ不明な点が。
10億ドルでの買収ということはわかったのですが、10億ドルで株式の何%を売ったのか、どこの記事にも出ていません。100%の完全買収?それとも100%じゃないのか?
これがわからないと、いくらの時価総額を想定しての買収なのか全く分からないのですが、誰もこれに触れていない、ってのは一体…?
(まあ、要するに皆さん、したり顔で評論するものの、実際にはよくおわかりでないということか、おっと、誰か来たようだうぇrちゅいおpldgfhgjhk)

気を取り直して、仮に100%で10億ドルなら、日本円で約800億円の時価総額。
Instagramの財務状況を知る由もないですが、売上はほぼゼロなのでPL上稼ぎがあるわけではない。BS側は、資本を大きく食いつぶす投資が必要なわけではないと思いますので、サーバー代、開発費、人件費、家賃などなどランニングコストで資本を食っている状態なんですが、まあ13人なんでたいしたことないでしょう。というわけで、おそらく、BS上、バリュエーションに特別影響を及ぼすようなものはないと推察されます。
ってことは、バリュエーションとしてPERから考えても、まあそう問題はないよねってことになります。
800億円の時価総額を正当化する収益をPERで考えてみます。
仮に通常運転になった時の将来PER15倍として、毎年税引き後の純利益を50億円強稼ぎ出すビジネスなら正当化されます。税前の営業利益ベースで90億円ってところでしょうか。
現在3000万人の利用者数らしいので、全部アクティブユーザーとして、一人あたり毎年300円の営業利益。
利用者数がこれからも増加し続けるならば、まあ、そんなに高い買い物じゃないのかな、という印象。
一方で、この分野、意外に参入障壁が高くないってことを考えると、マネタイズはそう簡単でもないのかなぁ、なんて風にも思います。facebookが買うと、instagramのマネタイズは途端に楽になるのかな?そんなビジネスに仕上げられるんだっけ?

以上は、あくまで100%を10億ドルで買収した場合の試算です。
100%じゃないとしたら、それだけ収益のハードルが上がるということです。

どなたか、この買収比率ご存じのかたいらっしゃいませんか〜?

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